人前のソロギター演奏で頭が真っ白になる話

 人前に出て何かをするときには緊張感が高まり平常ではいられなくなるというのは誰にでもあることですが、ソロギターを弾くという話になると大変興味深いことが起きます。ピアノを弾くのと違い、ギターを演奏する時は多くが暗譜して譜面を見ないで弾くのがほとんどかと思いますが、演奏している内に演奏している曲が思い出せなくなり、頭が真っ白になって次がわからなくなって演奏が止まってしまうというということがあります。

一体この原因は何か?どうしたらこれを防ぐことができるのか?多くの人がこの問題について直面しますが、私なりに考えてみました。

ホール演奏は恐ろしすぎた~💦


頭が真っ白になる道のりを再現

直前の不安の芽生え

ステージ前に自分の予定していた曲を練習しようとしますが、うまく弾けず「あれ、どうだっけ?」という箇所が発生します。「まあ何とかなる。弾きながら思い出す」と言いつつも一抹の不安がよぎります。

演奏を始めて違和感

さて演奏が始まりましたが、自分の周りの空気がなにか普通ではない感じがします。構えたギター、ネックを抱えた左手、弦を弾き始めた右手、なにかおかしい、落ち着かない。いつもこんなだっけ?多くの視線が集中しているのを感じて緊張度が上がります。それに伴いなにか動きがおかしい。思ったとおりに体が動きません。頭の中が集中を欠き整理ができなくなります。

突然手足が震える

しばらくすると突然勝手に手と足がガタガタ震えます。震えを止めようにも止まりません。体がコントロールできなくなり慌てます。震えて左手が違うポジションを押さえたり、右手が違う弦を弾いたりし始めます。

不安から恐怖へ

ミスが増え、曲が破綻し始めます。ミスしていることがはっきりと聞き手に伝わります

だんだん次に進むのが不安になります。「早く終われ~」と自分でも分かるくらい演奏がどんどん早くなります。次が思い出せないのに進んでいるからです。次第に不安は恐怖へ変わります。急激に興奮し心拍数が上がります。

頭真っ白の世界に到達

ついには間違えて止まります。止まったので弾き直してしまいます。演奏はまたまた止まり、また弾き直します。そして最後に弾き直そうとしてもわからなくなり弾けません。「あれっ?」「あれっ?」と言ってしまいます。「この曲はどうだっけ?」ゲシュタルト崩壊し、演奏は完全停止。頭が真っ白世界への到達です。

恐怖に一人取り残される

あれほど練習したつもりだったのに頭の中では「どうして?いつもは弾けるのに」という思いです。

聞いている人々が不思議そうに見ています。シーンとしたままです。静寂がさらに恐ろしさを増し自分はその中で一人だけで恐怖に包まれます。頭が真っ白と同時に恥ずかしさでいっぱいになります。

汗だくになります。曲が終盤でしたら、ごまかして追われますが、曲の真ん中でしたらどうしようもありません。「すみません。忘れました」と言い訳をします。

次の曲に入るのだが・・・

お客さんからは反応は無く静寂だけが残ります。心拍数は上がったまま。一度失敗してしまうとくじけた心はは回復できません。その次の曲にとりかかるのですが、完全に弾けると自信を持っている曲も間違いだらけでちっともいいところがありません。弾き直しが度々発生してまさに最悪の状態です。シーンとした状態の上終わっても静かな拍手でこの場が盛り下がっているのが感じられます。完全終了です。

その後落ち込む

汗だくになりながら戻ります。他の演者さんへのお客さんの拍手と歓声の音を聞きながら、他の人達と顔を合わせることすらできません。「どうして間違った、お前だけだよ」という恥ずかしさと自戒の念でいっぱいになり終わった後もそのまま数日を過ごします。

次のステージに不安を抱える

失敗経験は次のステージ前にまた起こるのではないかという不安へと繋がります。ステージ前の不安はまた次の頭真っ白状態への火種となります。ループする可能性を持ってしまいます。

誰がこんな体験をしたいと思うか?

こんな体験を何度もしましたし、ステージ上でそうなってしまった犠牲者達(笑)を何度も見ました。ソロギターは自分ひとり、間違いはごまかすことができず、時には恐怖すら感じることもあります。ソロギターを人前で演奏するのはトラウマを抱えてしまいかねない恐ろしい経験にもなる、と言えるでしょう。本番前に相当練習したつもりでもこうなりますし、適当に練習している人がステージに初めて立つと一フレーズも弾けずに終わるかもしれません。こんな恐ろしさが待っているジャンルがどうして流行るでしょうか?やっている人は相当変わり者だと思います。まず流行らない、こんなジャンル・・・


と思いますが、それが返ってどうやって攻略するかという練習意欲をそそらせるのがこのジャンルの面白さなんですよ。精神修行にも似たストイックな世界です。たとえうまく弾けていたとしてもじわじわ恐怖が襲ってくることさえあります。心の中のバトルが繰り広げられ、それに打ち勝ったときの達成感はなんとも言えないものがありますね。

「頭真っ白」を避けるためにすることを考えてみた

事前の準備

練習時に誰が来るかをイメージ

どんなお客さんが来てくれるのかで緊張度が違う事があります。音楽にうるさい人、演奏がうまい人、名前が知られている人等がその場にいるだけで緊張度が数倍上がり、演奏がヘロヘロになる可能性が高くなります。そんな人が来ても大丈夫なように練習するのだ、という心がけを持つ必要があります。

曲はもしもの事を考えやさしい曲を準備

演奏前に緊張で弾けない、演奏中にこれは弾けないと分かった時の別のやさしい曲を準備します。曲目を変えたり、出だしが分からなかったりするための対策です。多くあった方が自分を助けます。

「違和感」対策を練る

椅子とギターの構え方

練習の時点で様々な椅子で練習し、違和感なく弾けるようにします。ステージの椅子が高すぎて地につけた足が低くなり構えたギターの位置が低くなることが多いので、足台は使わず低い構えでも足を組まずに弾けるように練習します。ネックはあまりのぞき込んだりしない練習をした方がいいです。ネックが上に向いた状態でのぞき込む弾き方はステージ上で雰囲気にのまれてその構えを崩してしまって「違和感」を作り出す要因になります。

服装

服装も同じにして足の上でギターが滑らないか確認します。

照明

練習する際の照明も色や明るさを変えて問題なく弾けるか確認します。張りたての弦は照明のライトを受けるとギラついて左手のポジションの置き場に戸惑いが出ますので、そのギラツキに慣れるか、張りたてはやめるかにします。ポジションマークが見えなくても弾けるように練習します。

モニター

モニターの音が聞こえなくても弾けるよう、テレビや動画の音を出してうるさい状態で弾けるか確認します。立ちで引く場合は立ちで練習します。

ステージでは手汗で指の動きに引っかかりが出て弾きにくい場合があります。ハンドクリームを指の間に塗り込めるよう準備します。

PA

PAの出音に違和感を感じる場合があるのでPAの出音に近い状態で音を出して弾いて慣れておきます。特にミドルが出すぎるとジャリジャリして弾きにくいのでミドルを下げて良い音になるような調整など練習をしておきます。低音があまり出てないと感じる場合は他を下げて低音が聞こえるようにするような練習をします。

エフェクト等機材が正しく動作するのを確認します。

曲をしっかり覚える

曲を弾いて練習する際、今弾いている箇所の先はどうなるかを弾きながら思い出せるようにし、「次はなんだっけ」ということがないようにします。「次はこれ」といつも思い出せるような状態にします。曲を分割し途中から弾ける場所をいくつか作っておきます。分割してバラバラに練習します。バラード曲は特に音と音との間が空き、雑念が入りやすいので集中を欠き魔が入り込みやすいので重点的に練習します。また曲中の呼吸する箇所を決めておきます。呼吸が浅くなり、血中の酸素が不足し、頭が真っ白になるのを防ぎます。

体力をつける

興奮して心拍数が急に上がったときに冷静に対応する事のできる体を作ります。週に何回かタバタ式トレーニングなど呼吸がいっぱいいっぱいになった状態を経験し体を慣らします。筋力トレーニングも軽く行い、筋力をつけます。酸素不足になり頭が真っ白になるのを防ぎます。

リハーサル

音出しチェック

リハーサルがもしできる時間があれば出音のバランスを調整します。違和感を感じたときは大抵ハイミドルが出すぎな場合が多いです。ミドルが出すぎてないか?ローが聞こえているか? エフェクトはきちんと動作するかを確認します。リバーブがかかり過ぎてないか、ちゃんとかかっているか。モニターの音だけではなく、メインスピーカーの音も必ず聞きます。モニターとメインとの出音が違う場合が多いです。演奏中、モニターの音を聞いて不安になり集中を欠く事もあります。メインからの出音がきちんと出ているのを確認すると演奏中の安心につながります。

椅子の高さ

座りで演奏する場合、椅子に座って違和感なく弾けるかを確認します。大抵は椅子は高い場合が多く、低い椅子があればそれを選びます。違和感がある場合、ギターを右足の上にのせる人はのネックを自分側に寄せてしまって右腕が伸び、左腕のスペースがあまりないのに気が付いてない事が多いです。

照明

リハと本番では照明が違う事がよくありますが、照明が前方から当てられるとネック上のコントラストが大きくなり、明るい部分と暗い部分がはっきりして違和感を覚えます。張りたての弦はぎらつき、フレット上のポジションマークは見にくくなり、ポジションドットの付いたネック側は影になりドットが見えなくなりますのでそれに目が惑わされてフレット上のポジションが分からなくなります。その可能性を考えて照明も見ておいてください。

リハーサル後

曲目

リハーサル後は曲目の変更などできるだけ事前の不安の種を取り除きます。曲目を事前に伝えなければならない場合と、自由に曲目を変えられる場合とがありますが、曲目を事前に伝えなければならない場合は曲目は絶対弾ける安全パイの曲しかやらないようにします。伝える前に弾くのが怪しい曲は選ばないようにします。自由に曲目を変えられる場合は本番前に曲が一通り弾けるかどうかを控え室か隅っこか外かでこっそり確認します。多くの確率で場所の雰囲気に飲まれてこの時点で弾けない箇所や曲が出てきますので、不安な箇所をしっかり思い出します。ここで一部でも思い出せない曲は曲目から外します。より自信のある曲と入れ替えます。予定の曲数を減らすというのもありです。この時間が一番大切です。

曲順

本番で演奏し始めた数分は「違和感」を自分の中で整理し消化する時間となります。そのため集中に欠く可能性が高く、いきなり頭真っ白状態に突入する確率が高いので最初は演奏の難易度が低い曲を選びます。ストローク系が得意か、バラード系が得意かで選ぶ曲は違うと思いますが、最初の曲を無難にクリアすること、これが一番重要です。


いざ本番、バトルが始まる

対バン系でのライブで生じる緊張の種

対バンという複数のグループで行うライブでは「人前で演奏する」というだけの緊張以外に「上手い対バンの人々」と「自分とは別格と見なす予想外のお客さん」という要素が加わって事前の予想よりも緊張度が上がります。それは「よーし、やってやろう」というモチベーションアップにもつながるのですが、それは自分の心の中に自分で大きなハードルをを設けてしまっているという事ににもつながります。失敗すればボロボロ→頭真っ白につながりかねません。このライブで上二つの予想外の緊張の種が生じた場合は「これは厳しい戦いになる」と覚悟した方がいいかもしれません(笑) 曲目の難易度をさらに下げましょう。

演奏始めで違和感

演奏が始まれば後は客観的に自分を見て整理していくだけです。「違和感」が出ますし、「緊張感」が出ます。徐々に「手足の震え」も出たりします。まずは最初の違和感を整理します。最初の曲は自動的にでも弾けるように難易度下げますので弾きながら違和感の元を探します。曲の終了と共に違和感を訂正します。それはギターの構えだったり、マイクの置かれている位置だったり、音のバランスだったり、視界にはいる人だったり(笑)

失敗しても気にしない事

まさかの失敗が発生することがあります。失敗したからといってお客さんは一瞬のことなのであまりそれほど深く思いません。次が良くできればそれで良しとします。大切なのはそこで断ち切って次に失敗を引きずらない事です。

今日の自分はどれだけ弾けるか判定→変更へ

始まれば今日はどれくらいの自分かが分かりますので、演奏していてこれは弾けない事が分かった場合、省略したり、短くしたり演奏中に変更することも考えます。曲を分割して練習していれば、演奏でつまったときに分割したところから始めることが出来、完走することが出来ます。指は動きませんが、冷静に判断します。

それでも分からなくなってしまった・・・orz

分から無くなれば、「今日はこの曲はこれくらいにしときます あはは~ 続きは次回で」とトークで誤魔化すなどもあります。大切なのは事前にトークで誤魔化しがお客さんにとっては笑いになるような雰囲気づくりです。始める前にトークで笑の一つを取っておく事です。自分にとっては演奏としては屈辱ですが、自分の失敗を笑いに変えてしまう事はステージとしては成功と見なします。

ミスの許されないガチステージもあるが・・・

Finger Picking Day予選。ヤバすぎ~💦

MC無しのギターコンテストとかホールでの演奏、仕事としての演奏などガチの演奏もあります。一般の人にとっては緊張が無くなったり震えを止めたりすることはできません。「慣れ」という程ガチのステージはありません。緊張で上がってしまって本来の力を発揮できない程悔しい事はありません。どうしてもという事があります。

ネットで興味深い記事を見つけました。「あがる」の研究レポート で検索していただければ見られると思いますが、恐らくクラギのソロギター弾きさんの「あがる」症状にたいして調べた内容です。色々と追及した結果、心理的なアプローチよりもたまたまお医者さんに処方されたβブロッカーの薬を使ったら良かったよ、という結論なのです。

今は病院などで処方されるようですが、「インデラル」という薬を使えば手の震えは出なくなるそうです。あがり症なので薬を処方してくださいと頼めば出してくれるとか・・・プロも使用する人もいるとか・・・これが最終的な解決方法なんですね。

「インデラル」までは行かなくとも処方箋なしに普通に「あがり症」のための薬は売っています。「アガラン錠」(笑)他にもいろいろと。知りませんでしたが今度試してみたいと思います。

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