【自作アコギ製作記】D-18スタイルをベースに、独自の演奏性を形にする 完結編

 塗装:エポキシ下地とシェラックの相性

ネックとボディを接合する前に、別々に塗装を行いました。 今回は下地処理にZ-POXY(仕上げ用エポキシ剤)を導入。二液を混合して薄く塗り広げ、導管が埋まるまで計5回ほど繰り返しました。

Z-POXYで仕上げる

これが驚くほど便利です。塗装前の下地をフラットにする「目止め」を確実に行ってくれるため、その後のシェラック塗りが圧倒的に早く、美しく仕上がります。「1号機の時にこれを知っていれば……」と悔やまれるほどの作業効率でした。

導管埋めを終えた後、シェラックフレークを変性アルコールで溶かし、タンポ塗りで仕上げていきます。Z-POXYのおかげで杢目が鮮やかに浮き立ち、理想的な光沢が得られました。

思ったより簡単きれい

タンポの素材選びの罠

当初、タンポの布に古着のTシャツを使っていましたが、ここで問題が発生。Tシャツ(綿ニット)だと生地が弱く、シェラックを塗り広げる際に摩擦で毛羽立ち、ダマになって表面が汚れてしまいました。特に面積の広いトップ板で苦戦し、試行錯誤が続きました。

ネットを調べると「リネンが良い」とありましたが、手元にあった古いカッターシャツ(織物生地)を切って試したところ、これが大正解。生地の強度があり滑りも良いため、ダマの問題が一気に解決しました。道具選びの重要性を痛感した一幕です。

サイド板の仕上げと格闘

塗装を進めると、サイド板とバインディングのわずかな段差や、サイド板の波打ちが予想以上に目立つようになります。結局、再度Z-POXYを盛り直して凹みを埋める作業に時間を取られました。サイドの平面出しは、木地の段階からいかにシビアに行うべきか、次への大きな教訓です。

指板調整とフレット打ちのリカバリー

ネックはオクメ材の既製品を調整して使用。トラスロッド溝には共振防止のシリコンを充填して埋め込みました。指板はトップ板のドーミング(膨らみ)に合わせて接合面を削り、平面を出します。

トラスロッド埋め込み

苦労したのはフレット打ちです。645mmスケールで溝切り済みの指板でしたが、エボニーの特性か、12フレットあたりから圧入しても押し戻される現象が起きました。フレットのタング(足)が溝に入ることで、狭い間隔の中でエボニーに強い圧力がかかり、溝自体をさらに狭めていたようです。

急遽、ホームセンターで細いノコを購入し、溝の幅を微調整。さらに、叩くだけでは入らない問題に対しては、ミニ万力を使ってじわじわと圧力をかけて押し込むことで、綺麗に密着させられることが分かりました。仕上げには黒色の瞬間接着剤を注入し、隙間なく見栄え良く仕上げています。

ネックの接着

ネックは指板とトップ板にタイトボンドで接着し、ボルト締めとクランプをかけます。

ブリッジ接合と計算通りの「弦高」

補正を考慮して実測648mmの位置に配置し、ブリッジを接着しました。接着面のシェラックを慎重に剥がし、先に1弦と6弦のピン穴をあけてピンをはめ、位置がずれないようにしてからタイトボンドを塗り、クランプして固定します。

ここで最も不安だったのがサドル高です。弦を張る前の計測では指板の延長線がブリッジの上3mmを通っており、角度が付きすぎている懸念がありました。

ネック角が少しつきすぎたか

実際に弦を張ってみると、12フレット上で6弦が2.0mm、1弦が1.75mmという狙い通りの低い弦高に。現時点ではサドルの出し代が5mm程度あり、少し高めの状態をキープできています。

ただ、サドルが高くなった分、弦のブレークアングル(サドルからピン穴への進入角度)が急になりすぎる懸念があったため、先に彫ってあったブリッジピンの溝を一度埋め、角度が強くならないように修正を施しました。こうした細かい現物合わせが、全体のバランスを大きく左右します。

一般的にギターはそのままにしていると、経年で木が変形して弦高が上がり、いずれ修理を余儀なくされてしまうものです。しかし、このギターはサドルの高さに5mmほどの十分な余裕を持たせてあるため、将来的な調整の余地もしっかり残しています。さらにフレットには摩耗に強いステンレスフレットを採用したので、おそらく長期にわたって良いコンディションのままガシガシ使ってもらえるはずです。

完成:一見普通のドレッドノート、中身は最新の演奏性

低い弦高でもオープンチューニングにした際にビビリが出ないよう、フレットのすり合わせと調整を入念に行いました。

こうしてついに完成を迎えました。 今回は欲しい人がいれば譲るつもりで作ったギターだからこそ、自分なりに「弾きやすさ」をとことん追求し、最近のトレンドであるモダンな仕様を随所に取り入れています。

エルボーコンター: 構えた時の右腕への負担を軽減。

エルボーコンター

バックコンター: ヘッドが自然に上がり、より弾きやすい演奏ポジションへギターの位置を導く。

バックコンターの様子

ベベルドカッタウェイ: ドレッドノートのふくよかな容積(鳴り)を維持しつつ、ハイフレットへのアプローチを容易に。

一見するとオーソドックスなD-18スタイルのドレッドノートギターに見えますが、中身は現代的なソロギターの特殊奏法まで快適にこなせるスペックを詰め込みました。

完成したところ

セットアップの甲斐あって、非常に低い弦高でありながら軽い力でハイフレットまで滑らかに運指でき、それでいて軽いタッチでもボディ全体が震えて太く大きな音がしっかりと前に飛び出してくれます。

実際にどんな音がするのか、演奏動画を撮ってみたのでよければ聴いてみてください。

自宅で作るギターが、市販品を上回るということ

ここで少し、市販のギターと自宅で手作りするギターの違いについて、今回強く感じたことを書いておきます。

「アマチュアが自宅で趣味で作ったギターが、メーカーの市販品を上回ることなんてあるの?」と思われるかもしれません。しかし、結論から言えば「十分にあり得る」と私は思っています。

楽器店に並ぶ市販の量産ギターは、見栄えの美しさと耐久性・品質の安定を両立させるために、ある程度の厚さを持った塗装で仕上げられています。割れや環境変化を防ぐという合理的な理由があり、それはメーカーとして当然の判断です。ただ、ギター弾きとしては、その厚い塗装の膜がトップ板の振動をある程度抑えてしまっているのも事実です。

伝統的なラッカー塗装の高級機であれば、何年も弾き込む中で塗装が痩せて薄くなり、後からようやく本来の鳴りを発揮し始めることもありますが、一般的な厚塗り樹脂塗装の量産品となると、経年での劇的な鳴りの変化はなかなか期待できません。

対して、自宅で一本ずつ作るギターにはその縛りがありません。使う木材の個体差を指先で確かめながら極限までブレーシングを削り、さらに塗装に関しても、Z-POXYで合理的に下地を作った上で、極限まで薄いシェラックのタンポ塗りで仕上げることができます。

この「塗装を最初から限界まで薄くできる」という点こそが、市販品との大きな差を生む決定的なポイントです。派手な光沢こそ出ませんが、木の呼吸を妨げず、弦の振動をダイレクトにトップ板へ伝えるため、完成した初日からボディ全体が驚くほど鳴ってくれます。

「個体の木工に合わせて限界まで攻め、塗装を極限まで薄く仕上げる」。この2点において、自宅製作のギターは、時に市販の高級機を凌駕する圧倒的なレスポンスや音量を生み出すことができるのだと、今回の完成を通して改めて確信しました。

次なるステップへ

ちなみに、日本製(ハンドメイド)でこれだけのスペックを詰め込むとなると、市場での販売価格は20万円は下らないでしょうが……自分で作るとかなり安く済みますし、こうして作ってあげることもできます(笑)。

変則チューニングから打弦スタイルまでストレスなく応えてくれる、自分なりに納得のいく一台に仕上がりました。今は手元で時折眺めたりポロポロと鳴らしたりしていますが、手放すのが少し惜しくなるくらい良い鳴りをしています。このギターを気に入って、ガシガシ弾き込んでくれる人がいつか現れたら嬉しいな、なんて思っています。

実は、この2号機を製作している間に「次の3号機が欲しい」という嬉しいご希望をいただきまして、現在はさっそく3台目の製作に取りかかっています。 2号機で得た反省点やノウハウを活かしつつ、また少しずつ進めていこうと思いますので、そちらの製作記もどうぞお楽しみに!


【Mirabilis 主な仕様】

全体をパチリ

トップ: シトカスプルース単板

サイド&バック: アフリカンマホガニー単板

ネック: オクメ

指板(フィンガーボード): エボニー(ステンレスフレット仕様)

ブリッジ: エボニー

ブレーシング: Xスキャロップドブレーシング

スケール: 645mm

ペグ(チューナー): GOTOH(ゴトー) SG381

ナット&サドル: 牛骨

塗装: シェラック(Z-POXY下地)

特別仕様: エルボーコンター、バックコンター、ベベルドカッタウェイ

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